生まれる時代を間違えた。いまこそ乗りたい「早すぎた名車」3選
メーカーが本気で開発したからといって、必ずしも売れるとは限りません。優れた技術や独創的なデザインを備えながら、市場のニーズと噛み合わず、姿を消してしまったクルマもあります。
もし、登場するタイミングが違っていたら。今回は、そんな想像をかき立てる3台を紹介します。
01|AUDI A2:小さなボディに、アウディの技術を詰め込みすぎた



2000年に発売されたアウディ A2は、全長約3.8mのコンパクトカーでありながら、アルミボディを採用した意欲作です。当時、上級セダンのA8で培った技術を小型車にまで投入し、軽量化と空力性能を徹底的に追求。1.2Lのディーゼルモデルでは、100kmを約3Lの燃料で走る低燃費まで実現しています。
ただ、これだけ凝った設計には相応のコストがかかります。一般的なコンパクトカーと比べて高価だったうえ、独特なプロポーションも当時は受け入れられにくかったのではないでしょうか。セダンでもワゴンでもミニバンでもない。既存のカテゴリーに収まらず、何と比較して買えばいいのかさえ分かりにくい存在だったと思うんです。
結局、販売台数はアウディの期待に届かず、2005年に生産終了。日本には正規輸入されないまま、その生涯を終えました。
でも、いま改めて眺めると、このジャンルレスなデザインこそ面白い。東京で扱いやすいサイズでありながら、背の高い車体のおかげで室内は広く、見た目にも個性がある。合理性を突き詰めた結果、ここまで贅沢なものを作ってしまうところが、いかにも当時のアウディらしいですよね。
TBCCとして、A2を扱ったことはありません。現在ではコレクタブルカーのような存在になっていて、市場に出てくる機会も限られています。当時は立ち位置のわかりにくさが弱点だったかもしれない。でも、いまとなってはその独創性こそがA2を選ぶ理由になると思うんです。
02|HONDA エレメント:アウトドアブームを待てなかったSUV

今回紹介する3台のなかでも、登場する時代が違っていたら、もっとも人気が出ていたと思うのがホンダ エレメントです。
北米で開発され、日本では2003年に発売。大きな無塗装の樹脂パーツをまとった箱型のボディに、両側の観音開きドア。車内には水拭きできるフロアや防水性のあるシートを備え、長いサーフボードも積み込める。外で遊ぶための工夫が詰まったSUVです。
僕は、このクルマが2020年以降のアウトドアブームに登場していたら、ハイラックスサーフやテラノのような定番になれたんじゃないかと思っています。ところが、日本での販売は2005年12月に終了。発売時に月間1000台だった販売計画も、最後のマイナーチェンジでは年間600台まで縮小されていました。
いまのエレメントが面白いのは、アウトドア好きだけでなく、ファッションやストリートカルチャーに親しむ人たちにも選ばれていること。僕の友人にもオーナーがいますが、キャンプ道具を満載して山へ向かうだけでなく、東京の街中を普段着で走る姿もよく似合う。無骨なのに可愛げがあって、現在のファッションにも馴染むんですよね。
実は僕自身も、一時期購入を考えていました。ただ、国内の流通量が少なく、独自の人気もあるため、なかなか気に入った個体に出合えない。子供が生まれてからも使えるし、アウトドアが趣味でなくても楽しめる。みんながランクルやハイラックスに注目するなか、あえてエレメントを選ぶのも面白いと思うんです。
03|SUBARU R1:広さを求めなかった、贅沢な軽自動車

軽自動車といえば、限られた寸法でいかに広い室内を確保するか。そんな競争とは異なる方向を目指したのが、2005年に発売されたスバル R1です。
大人2人での使用を基本とした3ドアのパーソナルカーで、必要なときには4人乗ることも可能。後部座席の広さより、スタイリングや前席の快適性を優先した、割り切った設計が特徴です。
僕が注目してほしいのは、外観だけでなく内装にも手間をかけていること。赤と黒を組み合わせたインテリアに、立体的なメーター。以前、うちのYouTubeでも紹介しましたが、インパネの質感ひとつ取っても、スバルのこだわりが伝わってきます。軽自動車でも所有する楽しさを追求できる。その可能性を示そうとしたモデルだったんじゃないでしょうか。
一方、当時の市場では、ワゴンRに代表される広くて実用的な軽自動車が人気を集めていました。そんななか、3ドアという制約に加え、凝った内装にもコストをかけたR1は、購入者を選ぶ存在だったはず。発売当初の月間販売計画800台に対し、同年11月にはR1シリーズ全体で400台へと変更されています。
ただ、一人や二人で過ごす時間を大切にする現在の都市生活において、R1の考え方は決して突飛ではありません。スマートのようなパーソナルカーとして、自分の好きなデザインや乗り心地を優先する。日常的に大勢を乗せる必要がなければ、後部座席の広さにこだわらなくてもいいでしょう。
軽自動車だからといって、実用性だけで選ぶ必要はない。R1は、そんなクルマ選びの可能性を20年以上前に提案していたんです。
売れなかった理由も、いまなら選ぶ理由になる
僕がこういうクルマに惹かれるのは、メーカーが当時の常識にとらわれず、何を実現したかったのかが見えてくるからです。
A2のアルミボディも、エレメントの観音開きも、R1の割り切った室内も、発売当時は購入をためらう理由になったのかもしれません。でも、その個性がいまの自分の暮らしに合うなら、話は別です。
過去の販売台数に、いまの自分の好みまで決めてもらう必要はありません。売れなかった理由を知ったうえで、それでも欲しいと思える一台を探す。そんなクルマ選びも、中古車ならではの楽しみだと思うんです。
Edit: Kanta Hisajima