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CULTURE 4分で読める

夏は熱く、冬は冷たい。なのになぜ、僕たちは本革シートに惹かれてしまうのか

高級車の内装といえば、本革シート。汗ばむ季節には蒸れやすく、手入れにも気を使う。高級装備だからといって、必ずしも快適とは限りません。

それでも、革張りの内装には抗いがたい魅力があります。独特の手触りや美しい光沢、使い込まれた革にしか出せない風合い。実用性だけでは説明できない、その価値を考えてみます。

高級なのに、快適とは限らない

本革シートの使い勝手は、クルマの装備によって大きく変わります。シートヒーターや、座面と背もたれの通気を助けるベンチレーションがあれば、夏冬の不快感は軽減できます。一方、こうした機能を持たない古いクルマでは、エアコンで車内が冷えるまで背中の汗が引かないことも。革の種類や表面加工によっても、座り心地には違いが生まれます。

手入れにも気を配りたいところです。砂やほこりは表面を傷つけ、長時間の直射日光は色あせや硬化の原因になります。とはいえ、頻繁に専用クリームを塗る必要があるとは限りません。トヨタでは本革部分について、汚れを取り除く日常的な清掃に加え、年2回程度の定期的なお手入れを推奨しています。適切な方法は革の種類によって異なるため、愛車の取扱説明書を確認しておきましょう。

では、布張りなら万事解決かといえば、そう単純でもありません。ファブリックは肌に触れたときの温度変化が比較的穏やかな反面、飲み物をこぼすと繊維に染み込んでしまう場合があります。見た目が革に近い合成皮革も、製品によって通気性や耐久性はさまざまです。

高価な素材だからといって、あらゆる場面で快適とは限らない。日常の使いやすさを優先するなら、ファブリックの方が付き合いやすい人もいるでしょう。

かつて、オーナーが座るシートは布だった

革張りが高級装備の代名詞となった現在ですが、かつての高級車では事情が異なりました。

20世紀初頭のロールス・ロイスでは、運転手が座る前席に丈夫な革を使い、オーナーがくつろぐ後席には上質な布を採用する仕立てがありました。当時は運転席が屋外に開放された車体もあり、雨風にさらされる場所には耐久性の高い革が適していたのです。つまり革は、もともと実用性を重視した素材でもありました。

この伝統を現代に再解釈したのが、2022年に発表されたロールス・ロイスの特別仕様車、ファントム・プラティーノ。前席をレザー、後席を異なる2種類のファブリックで仕上げた一台です。一方はイタリアの工場で製造された生地、もう一方には竹由来の繊維を使用。最高級車の代名詞ともいえるメーカーが、あえて布張りの美しさを追求しています。

それでも革張りの運転席に座りたい

革が高級かどうかは、時代によっても変わります。けれど、その歴史を知ったところで、革張りの内装への憧れがなくなるわけではありません。

ブラウンのレザーとウッドパネルを組み合わせたクラシックなセダン。黒い革で統一されたスポーツカー。ドアを開けた瞬間に目に入る光沢や、座面から背もたれへと続くステッチ。シートの仕立てひとつで、そのクルマの個性が伝わってきます。

なかでも惹かれるのは、年式を重ねたクルマの革張りです。丁寧に扱われてきたシートには、身体になじんだシワや独特の艶が生まれることも。履き込んだ革靴や着慣れたレザージャケットにも通じるかっこよさがあります。もちろん、革の種類や仕上げによって経年変化は異なり、ひび割れや表面の剥がれまで美談にする必要はありません。

そもそもシートは、クルマに乗るたびに身体を預ける場所です。何年も乗り続ければ、運転席には自分が過ごしてきた時間の痕跡が残るかもしれません。

夏の暑さも、冬の冷たさも、手入れの面倒も承知のうえで、それでも革張りの運転席に座りたい。これから自分が刻んでいくシワまで想像して、一台を選ぶ。高級装備という肩書きよりも、そんな憧れの方が、本革シートを選ぶ理由としてはずっと魅力的ではないでしょうか。

Photo: Tomoro Nakasuji/Instagram @tomoro
Edit: Kanta Hisajima