「クルマはケツよ」白洲次郎が愛した911の美尻とロマン|パンチラインからクルマを考える
「クルマはケツよ」
クルマ好きの間で、ときどき交わされる言葉です。フロントマスクでもなければ、馬力でもない。駐車場から去っていく後ろ姿や、信号待ちで前を走る姿。最後まで目に焼きつくリアビューにこそ、そのクルマの色気が表れる。
では、なぜ人はクルマの「ケツ」に惹かれるのでしょうか。その答えを考えるとき、思い浮かぶ一台がポルシェ911です。そして、その911に惚れ込んだ人物として知られているのが、無類のクルマ好きだった白洲次郎でした。
後ろ姿で人を惹きつけるポルシェ911
大きく張り出したリアフェンダー。そこへ滑らかに流れ込むルーフライン。そして、最後にすっと絞り込まれるテール。そのシルエットを見て、「エロい」と表現する人も少なくありません。
もちろん、クルマに性的な意味があるわけではない。それでも、人は本能的にあの形へ惹かれてしまう。クルマを単なる移動手段ではなく、相棒やパートナー、あるいはロマンの象徴だと思っている人ほど、その感覚を理解できるはずです。
そんな911を愛した人物の一人が、白洲次郎でした。
戦後、吉田茂の側近としてGHQとの交渉に携わり、「従順ならざる唯一の日本人」と評された男。その一方で、無類のクルマ好きでもありました。ケンブリッジ留学時代にはベントレーやブガッティに乗り、世界の名車を知った白洲が愛車に選んだ一台が、1968年式のポルシェ911Sです。
ベントレーも知っている。ブガッティも知っている。それでも、911に惹かれた。それが何より面白いところです。

人は、合理性だけでは恋をしない
冷静に考えれば、911は決して合理的なクルマではありません。荷室は狭く、後席もほとんど使えない。エンジンと駆動輪を車体後方に置くRRレイアウトは一般的とは言い難く、雨の日には神経を使います。価格も安くありません。
もっと便利で、もっと快適なクルマはいくらでもあります。それなのに、911は60年以上にわたって世界中で愛され続けてきました。
もしかすると、人は合理性だけでは恋をしないからかもしれません。
燃費がいい。荷物が積める。壊れにくい。それらは「正しいクルマ」をつくる条件ではあっても、「惚れるクルマ」をつくる条件とは限らない。人も同じです。条件だけなら、もっと合理的な相手がいるかもしれません。それでも恋に落ちるのは、理屈では説明できない魅力があるからでしょう。
クルマにも、少し不便で、少し癖のあるものがあります。それでも、その癖ごと愛してしまう。911の張り出したヒップラインには、合理性では測れない色気があり、白洲次郎もそこに惚れた一人だったのかもしれません。
「クルマはケツよ」
この言葉は、決して下品な冗談ではありません。クルマを降りたあとに振り返りたくなるか。駐車場を離れてからも、もう一度見たくなるか。クルマのロマンとは、きっとそんなところに宿ります。
クルマ選びに正解はありません。それでも、恋をするように選んだ一台は、きっと長く愛せるはずです。

Photo:Tomoro Nakasuji/Instagram@tomoro
Edit:Kanta Hisajima