AT限定じゃないのに、なぜ乗らない? この時代にマニュアル車を選ぶ意義
教習所で教わるのは、マニュアル車を正しく動かす方法まで。運転の面白さは、その先にあります。
試験に合格するために覚えた技術は、あくまでクルマを正しく動かすための手段。免許を取ったあと、その手段をどう使うかは自分次第です。エンジンをどこまで回し、どう加速していくか。操作が噛み合えば、思いどおりにクルマが動く。その感覚こそ、わざわざマニュアル車を運転する醍醐味なのです。
同じ40km/hでも、走らせ方はひとつじゃない
ニュートラルから1速へ入れ、クラッチをつないで走り出す。速度が乗れば2速、3速へ。マニュアル車では、発進して交通の流れに乗るまでの短い時間にも、両手両足を使ってクルマを動かします。
慣れてくると、最初は忙しかった一連の動作が自然につながっていく。エンジンの音や回転を感じながら次のギアへ入れ、クラッチをつなぐ。こちらの操作に対する反応が、そのままクルマから返ってきます。
たとえば時速40km。2速のままエンジンを回して走ることもできれば、4速まで上げて静かに流すこともできる。アクセルを踏み足したときの反応も、エンジンの音も違います。同じ速度でも、その走らせ方はひとつではありません。
クラッチがつながる位置、シフトレバーを入れたときの感触、エンジンの回り方も一台ずつ違います。同じように操作しても、返ってくる反応は同じではない。乗るほどにそのクルマの癖がわかり、それに合わせて手足の動かし方も馴染んでいく。こうして一台を自分の思いどおりに走らせていくことが、マニュアル車の面白さです。
MT車まで候補に入るなら、愛車の選択肢はもっと増える
中古車選びは、色や年式、状態、価格と条件を重ねるほど候補が減っていきます。そこからさらにMT車を除外すれば、出会える一台はもっと少なくなる。
AT限定ではないなら、長く乗っていないことだけを理由に最初から候補を狭めるのは惜しい。欲しい色で、状態もよく、予算にも収まる。最後に残った条件がマニュアル車だったというだけなら、そこで諦める必要はありません。
オートマで乗りたいクルマもあれば、マニュアルで乗りたいクルマもあります。服に合わせて靴を選ぶように、どちらが上かではなく、その一台をどう乗りたいかで決めればいい。
中古車サイトでMTの表記を見てもページを閉じない。それだけで、これまで見過ごしていたクルマまで愛車候補として見えてきます。

合理性では測れないマニュアル車のロマン
現代のオートマ車は、速く、滑らかで、扱いやすい。さらに運転支援機能も進化し、速度の調整や車間距離の維持など、かつて人が担っていた操作をクルマに任せられる場面は増えています。運転という行為に、人が介在する必要は着実に減ってきました。
その流れとは逆に、マニュアル車は走らせ方の多くをドライバーに委ねています。どこまでエンジンを回し、いつ変速し、どんな加速で速度をつくるのか。手足を動かし、その結果をクルマの反応として受け取る。人が介在するからこそ成立する運転が、そこには残っています。
移動するだけなら、クルマがなくても困らない時代です。それでもクルマのある生活を選ぶなら、目的地に着くことだけで終わらせてほしくない。どんな道を選び、どう走り、そこまでの時間をどう過ごしたのか。移動の過程まで自分のものにできることも、クルマに乗る面白さだからです。
便利になるほど、人がやらなくていいことは増えていく。そんな時代に、あえて自分の手足で一台を走らせる。マニュアル車に感じるロマンは、不便さそのものではなく、運転する人の意思がクルマの動きに残ることにあります。
目的地へ着くためだけではなく、そこまでを走る時間まで楽しむ。そのためにマニュアル車を選ぶ。いまだからこそ、そんなクルマとの付き合い方には意味があると思うのです。
Photo: Tomoro Nakasuji/Instagram @tomoro
Edit: Kanta Hisajima