まさか「最小回転半径」を理解せずに、スペック表を眺めていないよね?|永井先生の自動車講座
クルマのスペック表で、何度も見たことがある「最小回転半径」。数字が小さいほど小回りが利く。それくらいなら、なんとなくわかるという人も多いでしょう。
では、その数値は何を基準に測ったものなのか。友達にちゃんと説明できますか?
見慣れた言葉ほど、わかったつもりで読み飛ばしがちです。知った顔をしていた人は、ここらでひとつ、お勉強をしておきましょう。
最小回転半径5.0mは、クルマが収まる半径ではない
最小回転半径は、車体全体が描く円の半径ではありません。ハンドルを目いっぱい切ってゆっくり旋回したとき、外側を通るタイヤの接地面中心が描く軌跡。その最大半径が、カタログに記載される数値です。つまり「5.0m」と書かれていても、一台まるごと半径5.0mの円に収まるわけではない。
では、その5.0mを実際の街ではどう捉えればいいのか。TBCCクルーには、小回り性能を生活感覚に置き換えた勝手な物差しがあります。「オモサン一発」。表参道の交差点を、切り返さずにUターンできるかどうかです。もちろん正式な指標ではありませんが、5.0mと言われるより「表参道を一発で回れるか」と考えたほうが、街での取り回しはイメージしやすい。
たとえば最小回転半径5.0mのゴルフⅡ。単純に倍にすれば直径10mなので、それだけの幅があれば一発で回れそうに思えます。しかし、基準になっているのはあくまでタイヤの軌跡。前輪より先へ張り出したバンパーは、旋回するとさらに外側を通ります。
つまり、5.0mという数字だけでは「オモサン一発」ができるかまでは判断できません。小回り性能を比べる目安にはなっても、実際の車体が旋回に必要とするスペースを、そのまま表しているわけではないのです。
曲がり方を見れば、クルマの設計が見えてくる
ボディが小さければ、小回りも利く。そう考えたくなりますが、車体の大きさだけで曲がりやすさは決まりません。
たとえば筆者が普段乗るW124型メルセデス・ベンツ。280Eはホイールベース2800mmで、最小回転半径は5.2m。一方、ひとまわり大きなW126型Sクラスの560SELは、ホイールベース3070mmで5.8m。前輪と後輪の間隔だけでも27cmの差があります。
こうした違いを見るうえで、ひとつの手がかりになるのがホイールベースです。一般的には長くなるほど、旋回には広いスペースが必要になる。ただ、それだけでも決まりません。前輪をどこまで切れるかという「舵角」も、小回りを左右する重要な要素です。同じようなサイズでも、前輪を大きく切れる設計なら小さく回れる。反対にコンパクトなボディでも、舵角が小さければ狭い駐車場で意外と切り返すことになります。
最近では、低速時に後輪を前輪と逆方向へ切る後輪操舵を採用し、大きな車体でも旋回半径を抑えるモデルもあります。全長だけを見ても、その一台がどう曲がるかまでは読めない。ホイールベース、オーバーハング、舵角。いくつもの要素が組み合わさった結果が、スペック表の「最小回転半径」に表れているのです。
クルマを楽しむなら、動きの理由まで知ってこそ
最小回転半径の意味を知らなくても、運転はできます。けれど、狭い駐車場で「このクルマ、意外と回るな」と感じたとき、ホイールベースや舵角まで頭に浮かべば、その感覚には理由がつきます。なぜ扱いやすいのか。なぜ何度も切り返すのか。日頃なんとなく感じていたことと、車体の構造がつながって見えてくる。
アクセルを踏めば走り、ハンドルを切れば曲がる。その当たり前の動きも、すべて考えてつくられた結果です。型式や馬力をたくさん覚えることだけが、クルマに詳しいということでもないでしょう。自分が乗っているものがどう作られ、なぜそう動くのかを理解する。そんな知識は誰かに披露するためではなく、クルマとの付き合い方そのものを深くしてくれます。
何も知らずに乗るより、仕組みを知ったうえで乗る。SA MAG.は、そんな大人の方がイケてると思うのです。

Photo: Tomoro Nakasuji/Instagram @tomoro
Edit: Kanta Hisajima